中小企業で経験を積んで大手に転職、という考えに潜むリスク:インターンシップ・ブログ

日本の学生さんから「スタートアップで経験を身につけて、その気があれば大企業に移ってもいい」という趣旨の発言をちらほら耳にします。

スタートアップという存在や考え方が浸透するのはいいことだと思います。上のような発言も間違ってはいないのですが、肝心なところが抜け落ちているので、今日はそこについて書きます。

身についた能力と、望まれる能力の乖離

先日フリーランスの調査員として会社と契約しているヨーロッパの友人が、こんなことを言っていました。

「僕が所属している調査会社は経験を欲しがる多くの若いフリーランサーと、低水準の報酬で契約してる。フリーランサー達はここでの経験を生かして条件の良い企業にステップアップを望むんだけど、それが達成されるケースのほうが少ないかな。」

なかなか厳しい現実ですが、不思議なことではありません。理由は単純で、スキルのミスマッチです。

欧州の大手調査会社の求人を見ると、望まれているのは、プロジェクトマネージャーや、データアナリストなどの専門職ポジションが多いです。

しかし彼の所属する企業において、フリーランサーはデスクリサーチを1人で完遂させるスタイルです。汎用的な調査スキルはえられるかもしれませんが、必要とされている管理能力や専門性は身につきません。

日本でもこのような状況は、多くの業界で起きているのではないかと思います。

語られるスタートアップの長所と、現実

色んな場でスタートアップで働くメリットが語られていて、多分全て本当です。ただし、真実の全てではありません。フワフワと語られるメリットを違う言葉に置き換えてみます。

色々な仕事が経験できる → 分業化されていない

農耕から、工業が始まり、産業革命が起きて、IT革命が起きて・・・基本的に仕事は細分化される流れにあります。1人が多種の仕事をこなすより、特化したほうが生産性が高いからです。

大企業がプロジェクトを受発注する際には、法務部が契約書の内容を確認します。契約書のチェックは法務部の担当者のほうが一日の長があります(もちろん、余計に時間がかかる、という可能性もありますが。)

スタートアップであれば、担当者である新入社員が契約文言を確認する、ということになる可能性があります。いい経験になるかもしれませんが、効率は悪いとも言えます。

やりがいがある → 大小は無関係

日本の一括採用システムでは、やりがいの実感を持って新卒入社する人は稀だと思います。多くの人は「辞めにくそうな」ポイントを買われて採用されているのが現実です。

それも無理からぬことです。インターンシップは当たり前になった昨今でも、学生と社会は大きく隔たりがあって、仕事をリアルに感じる機会は限定的です。

なので多くの人は、入社後に担当した業務、つまり「今やっている仕事」に対してやりがいを見出すことになります。仕事にやりがいを感じるきっかけは、大企業にいても、中小企業にいても発生します。それを感じられるかは個人の性格や捉え方によるところが大きく、企業規模は関係ありません。

あるとしたら、「10億円規模以下の仕事には魅力を感じない」という、数字の規模感によるものでしょう。であれば、大きな数字が飛び交う大企業、あるいはメガベンチャーに行けばいいと思います。

0から1を作りたい・・・という人は、リクルートのような新規事業開発に積極的な大手に行くという手もあります。

アイデアが通りやすい → 経営者次第

和気あいあいと社員を家族のよう扱うスタートアップも多いと思いますが、経営者はあなたにとって雇用主であり、大きな力を持っていることを忘れてはいけません。(むやみに権力を振りかざす経営者はナンセンスですが。)

あなたのアイデアが通るのは、経営者の意図を汲み取ったものであり、かつ経営者がその価値(潜在的なものも含めて)を認めた場合のみです。

大企業の長所

いわずもがなですが、あらためて。

同期がいる

これは新卒オンリーですが、一括採用の場合、年度初めに100人、1000人単位で同期ができます。沢山いれば、1人や2人くらいは、ずっと付き合える人も出てくるかもしれません。

同期の存在は、皆さんが思うより大きいです。僕は同期を持ったことがないので無い物ねだりですが、人の話を聞いていて羨ましく思うことの一つです。

手厚い待遇

給与水準も、相当違います。e-Statの民間急実体統計調査によると、2016年は・・・

「従事員 10 人未満の事業所においては 339 万円(男性 420 万円、女性 242 万円)となっているのに対し、従事員 5,000 人以上の事業所においては 509 万円(男性 674 万円、女性 274 万円)となっている。」(e-Statより引用)

民間給与実態統計調査

従業員数5000人以上の大手を100%としたら、10人未満の企業の平均月給は80%。ボーナスに至っては18%です。大企業の社員の平均ボーナス支給額は零細企業の4倍以上です。

給与だけでなく、福利厚生や、退職金でも、大企業と零細企業では差が出ます。

大手のほうが休んでる

日本の会社では有給なんてとれない、という話をよく聞きます。2016年の有給取得率は50%に満たなかったそうです。

ただ、企業規模で比較すると、大手のほうが有給休暇取得率が高いです。 以下は厚生労働省によるデータです。

例えばメーカーの場合、工場がストップするお盆休みに合わせて10連休、などという話をよく聞きます。

現状は50%未満の有給取得率ですが、国も改革に乗り出しています。内閣府が打ち出した第4次男女共同参画基本計画によると、2020年までに70%の有給休暇取得率を目指すとの目標が掲げられています。おそらく対応を強く迫られるのは大企業からでしょう。

海外に出るチャンス

数年前には日本が誇るECやソーシャルゲームのメガベンチャーがこぞって海外市場を目指し、多くが一度は撤退を余儀なくされています。

「私達は海外マーケットを狙います」と豪語して、進出すらできず計画倒れに終わるケースもみてきました。

一から海外進出を目指すのは至難の業です。一方で既に海外でビジネスを展開している企業で、かつ利益を挙げているのであれば、事業所が存続する可能性は高いです。

https://prepared–slides.com/internship/workoverseas-3

スタートアップ向きな人とは

では、どんな人がスタートアップに入るべきなのでしょうか。

その会社で夢を描ける

給料低くても、激務でも、色んなことやらなきゃなららくても「この会社」に自分の心からやりたい仕事がある、と思い描ける人は、入社すべき・・・というか、勝手に入社します。周囲が色々言うかもしれませんが、しあわせは個人的な感情ですから。

社員が夢を描けるのはどのような企業にとっても素晴らしいことですが、中小企業の場合は強く相思相愛になれる可能性が高いです。会社の成長とともに責任の範囲を広げていれば、高額の報酬を手にすることになる人もいます。

次のステップが見えている

「会社の成長=自分の夢」とハマる人は極めて幸運で、なかなか望むことはできません。そうでないならば、自分のスキルと経験のセットをどのように活かすか、という視点で働く必要が出てきます。

やはり大企業であっても同じことが言えますが、経営基盤がおぼつかない中小企業で働くなら、なおさらです。

僕が日本の会社に属していた頃は、日本の大企業顧客と、外国企業との間に立った折衝と、プロジェクト管理をする、というニッチなスキルと、交渉のための英語の習得を目指しました。

現状を楽しめる

会社と、その中の業務を心から愛することができなくても、新しいスキルを身につけることや、スキルを向上させることに喜びを感じる人にはアドバンテージがあります。現状を楽しむうちにスキルの引き出しができて、上述の次のステップを見据えるきっかけになります。

有名企業でキラキラしている他人のことがどうしても羨ましく思ってしまいそうな人は・・・やっぱり大手を受けて下さい。それが賢いと思います。

さいごに

いろいろと書きましたが、卒業後の進路について、僕の個人的なスタンスは変わりません。

誰もが知る有名企業も、従業員3名の零細企業も、はたまた起業家になっても、僕がその人を見る目は変わりません。(本人が入社後に変質してしまう場合があるかもしれませんが、それは別の話です。)

周りを気にせず楽しめて、かつ夢を描けるのであれば、どんなとこでもいいです。そうでないなら、分かりやすいメリットを用意してくれている大企業を選ぶのもいいと思います。

そうそう、逆に大企業からスタートアップは簡単・・・と思っている人、そうとは限りませんよ。会社が望むスキルを証明できないのであれば、お呼びはかからないのは同じことです。

自分の特性をしっかりと見極めて下さいね。

次のエントリでは、中小企業に入った方に対するアドバイスを書きます。

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