2017年4月から5月中旬、リトアニア人の友人をたずねて首都ビリニュスに滞在しました。
僕には馴染みがない国。場所すらもおぼつかない国。
わずかな知識は、大戦時に、杉原千畝という外交官が難民にビザを発行した(日本版シンドラー)舞台だったこと。友人から聞いていた「自然が美しい」「ロシアと歴史的に緊張関係にある」「国旗が変わった」くらいのものです。
あとは、ゼロ。
なので、全然知らなかったリトアニアについて僕が感じたことを備忘録としてをまとめます。
どんな国でも、行かなきゃ分からないことがあるのです。そして何を感じて、何を学ぶのかもその人次第。
建築を見ておもう、リトアニア
13世紀リトアニアは、ヨーロッパの大国でした。その後ポーランドとの合併やドイツとの戦い、スウェーデンやロシアの支配などを経て今に至るのですが、ロシアの影響は色濃く残っています。
ビリニュスの郊外でよく目にしたのが、ロシア時代の集合住宅。レンガ作りの簡素な高層アパートです。
友人はとても穏やかで友好的な人物ですが、ロシアに対しては複雑な想いがあるようで、アパートを通過する度に”Soviet apartment”とため息混じりにつぶやくのでした。装飾を排除し、機能性と合理性を追求するソビエトハウスが、祖父母から伝え聞く歴史と混ざり合って彼の感情を揺さぶるようです。
一度聞いたされたくらいならそれほど気にならなかったかもしれませんが「ソビエト」という子供時代にしか聞かなかった言葉の響きと、彼のため息を繰り返しきくことで、僕の心にひっかかったのだと思います。印象とは複雑なものです。
ところで、ソビエト式の建築もあれば、リトアニア式の建築もあります。
幸運にも築100年以上のリトアニア建築に宿泊させて頂きました。
ボロく見えるかどうかはその人次第。僕はひとめでこの建物が気に入りました。とても広くて、ボールルームダンスができそうなくらい天井が高く(4メートルくらいはあったと思います)、木造と漆喰の古めかしさに趣を感じました。
ちなみにビリニュスの目抜き通りであるGediminas Avenueの両端に建つ2つの教会は、それぞれロシア式、リトアニア式なんだそうです。博識な人と散歩している間におしえて貰ったのですが、なにぶん彼は酔っていたもので、間違いだったらごめんなさい。
自然からみる、リトアニア
リトアニアは、天気が悪いです。よく雨がふります。そもそもリトアニアという国名は”Land of rain”という意味。
みんな天気について不満を持っていて、僕もその意見ににつられそうになりました。
しかし、降水量で比べると、ビリニュスよりも東京のほうがよほど「雨の国」です。
その差、実に2倍以上。
違いがあるとすれば、「雨の日」の日数。これについては、東京よりもビリニュスのほうが25%多いです。
リトアニアは日本に比べて「雨がたくさん降る」のではなく「雨が頻繁に降る」国だと言うほうが正確です。
自然環境とアウトドアブランドの関係
僕「リトアニアで山登りするなら、どこがオススメ?」
リトアニア人「・・・ポーランドまで行けば何かあるかもね」
自然が豊かだと聞けば、日本のように高い山があって、山登りを楽しめると思っていましたが、残念。リトアニアは平地です。丘のような勾配はありますが、山らしい山はありません。
リトアニア最高峰のJuozapine Hillですら標高292メートル。うん、トレッキングというか、ハイキングくらいのイメージですね。
僕は頑丈で長持ちするアウトドアウェアが好きなのですが、そういえば世界的なアウトドアブランドは、それを必要とする自然がある国を発祥としている気がします。
- Mammut(スイス)
- Jackwolfskin(ドイツ)
- Millet(フランス)
- Norrona(ノルウェー)
- Haglofs(スェーデン)。
必ずしも高い山とは限らないですが、1000メートルを超える山があり、しかも厳しい気象条件が揃う国にこそ、それらを克服するブランドが始まったのかな、と感じました。
加えて、比較的裕福な国であることも条件かもしれません。アウトドアウェアは研究開発のたまものですから。
雨雲に魅了される
そんなわけで山登りは断念しましたが、車で平野を走っていると、雨雲を見るのが楽しい・・・できかけ・できたて・壊れかけの・・・異なるステージの雨雲がそこかしこに見えるのです。
日本に住んでいて、雨の境目に立つと何だか嬉しい気持ちになりますが、リトアニアでは、それほど珍しいことではありません。
それどころか、見慣れてくると、雲から雨が降り落ちるのが視認できます。
僕が最も感動したのは「雨の降り初め」です。抱えきれるだけ水分を溜め込んだ雲が飽和して、重みに耐えかねて、洗面器の底が抜けるように雨が滑り落ちる・・・この光景を遠巻きに眺めた時には感動しました。
小学生のときこのフィールドワークを体験していれば、理科に対する姿勢が変わっていたかもしれません。
春は運試し
ちなみにリトアニアの冬は長く、春夏は短いらしいですが、僕は運が無かったようです。滞在中、ずっと雨と雪と雹(ひょう)に見舞われていました。
雹は英語でhailです。今後忘れることはないと思います。一生分のhailを見ました。
出国した5月10日は、文字通り吹雪いていました。
名物をみておもう、リトアニア
リトアニアの主食はジャガイモです。
太陽をいっぱいに受けて育つイメージのトマトやオリーブなどは、リトアニアとは結びつきません。
リトアニアを象徴する郷土料理は、ツェッペリーナイと呼ばれる、ジャガイモ団子の中にひき肉を詰めたもの。ソースは家ごとに違うのでしょうが、僕が頂いたものは、既にすっかりオイリーなツェッペリーナイにベーコンのオイルソースを合わせるという強者の料理。
味は、推して知るべしと申し上げる。僕は完食しました。季節に1回くらい食べたくなるかもしれません。
料理については別のブログ等で色々語られていると思うので、これくらいにしようと思います。ただ、名誉のために付け加えておくと、リトアニアのジャガイモは味が濃くて、美味です。
その他特産
代表的な特産品の一つが、麻(リネン)織物です。リネンが特産物である理由は、厳しい環境でも育つからです。
リトアニアリネンは産業として成熟しており、ビリニュスの中心部にはおしゃれなリネンショップが集中していています。
中でもLinen Talesというブランドは強気の価格設定でオンラインショップも洗練されています。「僕も代理店になりたい」とお店の人にもちかけましたが、鼻先であしらわれました。
もう一つ、代表的な特産物が、アンバー(琥珀)です。
知らない人のために説明しますと、琥珀とは、流れ出た樹液が昆虫や木の葉を取り込んだまま地中で石化したものです。ネックレスやイヤリングといった装飾にされることが多いので、希少鉱物だと思われがちですが、厳密には鉱物ではありません。
ちなみに、ご存知かもしれませんが、リネンとアンバーはリトアニア特有ではありません。エストニア、ラトビアを含めたバルト地域で共通の特産品です。
これぞリトアニアオンリーというモノに出会うことはありませんでした(積極的に探してないだけですが)。
対日輸出
日本はリトアニアから何を仕入れているのかというと、タバコです。金額ベースで8割がタバコです。
タバコ畑が沢山広がっているイメージはなかったのですが、大規模な生産工場があるようです。
医療機器、職人、衣類などが続きますが、タバコの突出ぶりには驚かされます。
しかも、2015年に5000万ドル台だった輸出額は、2016年におよそ3倍の伸びを見せました。規制緩和でもあったのか・・・どうやら家禽類の輸入について日本が開いたという発表もありましたが、それにしても実に8割タバコ・・・日本ではなくJT(日本たばこ産業)1社がリトアニアの主要貿易相手、ということになりそうです。
トレンドを見ておもう、リトアニア
ヘスバーガー
なんとなく入ったHesburgerというハンバーガーチェーン。気の抜けた名前が気に入りました。
観光客も現地の人にも人気のようです。
とうとう気に入ったローカルチェーンを見つけたと思ったのですが、フィンランド発祥でした。なぜヘルシンキで気づかなかったのか・・・。
念のためにもう一度。ジャガイモの味がいいので、フライドポテトがとても美味でした。
カフェ
街の中心部には独立系のカフェが点在しています。
よく通った”BREW” Kavos virėjaiは心地よい空間と照明で、学生や教員など、大学関係者が集う場所でした。コーヒーも美味しかったです。ラテが2ユーロ(250円)。
オーナーに話を伺うと、リトアニアにもサードウェーブコーヒーの波が来ていて、この店はその先鋒なんだそうです。有名なバリスタが頻繁に来店して、店員に指導するらしく、たしかに店員のうんちくも洗練されていました。
ただ、光が差すところにはその倍の影が落ちます。新人店員がこっそり教えてくれた時給は、計算すると最低賃金よりも遥かに低いものでした。
リトアニアは雇用者と被雇用者の格差が生まれやすい国です。
労働条件からおもう、リトアニア
友人が某大手ファームから受けたオファーは月1000ユーロだったそうです。いくらジュニアポジションとはいえ、あまりに安いとお断りしたと聞きました。
海外で雇用された経験がある友人は自分を高く売ると決意していましたが、この金額で喜んで雇われる人もいるそうです。
たしかに、僕が調査員として雇ったフリーの臨時アナリスト(ジュニアレベル)の時間単価は、15ユーロでした。この単価は他の産業に較べて高額だそうです。
これほど労働力が安価であれば、ITを始めとしたハイテク産業のアウトソース先になります。政府主導のIT改革で有名なエストニアの賃金が上がり始めた今、リトアニアはアウトソース先として有力です。
全く別の産業では、服飾のハイブランドも長らくリトアニアで生産しているようで、あまり表に語られませんが、バーバリーも大きな縫製工場を持っているそうです。
人口の流出
そんなわけで国内では給料が安いため、特に若い労働者は外国に出ていきます。
No.1の行き先はイギリスでした。EU圏で、英語圏で、賃金が高かったからです。
しかしイギリスのEU離脱をうけて、出稼ぎ先No.1はイギリスからドイツに移っているようです。ドイツの最低賃金はリトアニアのおよそ4倍。しかも首都ベルリンは欧州有数の都市でありながら、物価が低い。
リトアニアの人口は1991年の369万人をピークに、年々減少しています。2013年には300万人の大台を割り、2015年には293万人に落ち込んでいます。
24年間、合計で2割減、年平均でほぼマイナス1%って、どう思いますか?
尺度を日本に置き換えてみましょう。
人口2割減とは、東京都、大阪府、静岡県の人口がごっそり消えるようなものです。すさまじいインパクトです。ちなみに、年平均で1%の人口を失うということは、中国地方の最大都市である広島市の人口が毎年消失するような感覚です。
これはあくまで単純人口の比較です。リトアニアでも都市部の人口減少は地方に較べてゆるやかです。
しかし、人口減少は、生産と消費という基本的な経済活動が縮小することを意味するので、2割減とは国家にとって危機的状況と言るのではないでしょうか。
奇跡の通信プラン
お察しの通り、リトアニアは全般的に物価が低いです。現地プリペイドのSIMカードを購入したのですが、30日の4GB、音声とSMSは無制限のLTEプランが2.99ユーロ(350円程度)。しかもモバイルインフラはとても強く、日本の都市部よりよほど快適です。
徹底した低価格を追求するために、通信事業者は相当な合理化を進めているようで。Telia社はこの価格帯で黒字を出しているようです。
交通事情からおもう、リトアニア
ごく控えめに言って、ビリニュスでは1日1回以上、事故を目撃しました。
2016年リトアニアの事故発生件数はおよそ4,000件。人口あたりの事故遭遇率は1.4%です。
比べて日本の交通事故遭遇率は0.4%。
しかもリトアニアは首都でも日本ほど道路網が発達しているわけではないので、事故が起きる幹線道路の数も限られています。
交通事故が起きやすい理由その1は、道路状態の悪さです。普通にアスファルトが剥がれていて、路面はボコボコです。
道路を修理しないのではなくて、するお金が回らないのだそうです。なぜって・・・人口が減っていますから。
理由その2は、天候。暴風雨、雹、吹雪・・・全て運転にはマイナス要因です。
理由その3は、運転カルチャー。リトアニアの運転は基本的に荒く、追い越し上等です。
デスロード
この3つを的確に体現する道路が、リトアニアからラトビアへと続く通称「デスロード」です。
国をまたぐ幹線道路とはいえ、上り下りにそれぞれ1車線づつ、ガードレールなし、街灯なし、悪路、悪天候、そして120キロで追い越しチキンレースが展開されています。
冷や汗どころか背筋が凍りそうになる瞬間が何度もありました。
スバルインプレッサ
車好きの友人にどんな車に乗りたいかと聞かれので、日本車ならスバルのインプレッサだと答えると、彼はニヤニヤしながら。。。
「間違いなくいい車だよ、でもリトアニアでは乗りたくないかな」
リトアニアの東にあるベラルーシではタバコの値段が非常に安く、大量に仕入れてEU圏内で販売すると大きな利幅があるそうです。
要は密輸です。トランクいっぱいにタバコを買い付けて、しかし通常のルートで国境を渡ると没収・課税されてしまいます。なので、道なき道を走破する必要がある。それに適した車が、悪路に強く壊れにくいインプレッサなのだそうです。
リトアニア国内、特に東側ではインプレッサがパトカーに止められる頻度が高いから、遠慮したいということでした。
コストパフォーマンスの良さゆえの逸話です。どこまで本当なのか分かりませんが、面白いので精査しないことにします。
結論
外に出ましょう。留学、旅行、インターンシップ、なんでもいいですが、僕は色々外にでることを推奨しています。
海外に出ると、それなりに刺激があるからです。いや、国内でも沢山刺激はあるので、外に出た人のほうが体験的に優れているなんてことはいいません。でも、きっかけとして有力なのは間違いないです。
もうひとつオススメのプラクティスは、経験を要素ごとにまとめることです。
今回のリトアニアのエントリーは、要素を「建築」「自然」「名物」「トレンド」「労働条件」「交通事情」の順に書きましたが、それぞれがかなり密接に関わっています。
「リトアニアについて簡単に説明して」と言われたら、とりあえずこう答えます。
歴史的なロシアとのあれこれがあって、リトアニアのロシアに対する国民感情は複雑で、西欧の一因となるべくEU加盟が認められたが、天候に恵まれず主だった名産も持たず、またエストニアのような思い切った国策もとれないために賃金も上がらず雇用者と被雇用者の格差は開く一方で、若い労働者は裕福なEU加盟国に流出し、道路の修繕費もままならないというスパイラル。
まだまだ語れることはありますし、非常に一方的ではありますが、全くの見当ハズレということはないと思います。
それに切り口が多様なので、話も広げやすいです。
僕が過ごした1ヶ月間が基礎となり、今後も自分目線でリトアニアのことを思い続けるんだろうなと思います。にっちもさっちもいかなくなった国家が思い切った改革の末に浮上するといえば、アイルランドが思い浮かぶのですが、さてさて、リトアニアはアイルランドのようになるのか・・・楽しみです。
日本のことも、知っておく
会話は双方向で、お互いに情報を出し合うことで活性化します。なので、日本のことについて何も知らないのは具合が悪いです。少しづつ、日本のことも勉強しておいてください。
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