シンガポールのスタートアップが直面する現実:インターンシップブログ

Prepared Slidesを運営していると、面白い人にたくさん出会います。独立して最初に立ち上げたプロジェクトで知り合ったWayneもその1人で、SSHPの立ち上げの初期段階で大きな役割を果たしてくれた人物です。Wayneは、NUS(シンガポール国立大学)在学中、大学主催の起業家エクスチェンジプログラムに参加し、卒業後はアクセラレーターで働きながらホステルを運営し、起業をした人物。シンガポールが国を挙げて起業家を支援し始めたころの、エリート起業家群(不適切な言葉かもしれませんが)の1人です。

回転が早く、知識が豊富な彼と話すのが、いつも楽しみなのですが、全ての知識と見識をつぎ込んで話すことになります。疲れますが、心地いい疲れです。

1年ぶりに再開しても、変わらず冴え渡っていました。面白かったので、共有します。

古くからある価値観と、スタートアップの現実の間

>>> 1年ぶりだね、元気だった?

Wayne:元気だよ。結婚したし、子供もできた。

>>> そうだった、おめでとう。結婚した友達みんなに聞いてるんだけど、なんで結婚しようと思ったの?

Wayne:いいパートナーを見けたからだよ。だけど、文化的な影響もゼロじゃないと思う。適齢期で結婚して、家を買って、子供ができて。

>>> お父様、責任重大ですな。奥さんはリタイヤしたの?

Wayne:いやいや、それどころか奥さんに養ってもらってる(笑)。創業期のスタートアップは収入ゼロみたいなものだから。NUSの同期で起業した人は何人もといるけど、なかなか苦しい状況にいる友人もいるよ。手をつくして、作って、売ろうとして、市場をこじ開けられなくて・・・そうこうしているうちに家を買って、結婚して子供が出来て。僕ら世代の典型的な悩みだね。

>>> 日本でもそういうのあるけど、徐々に希薄化してるように感じる。意外とシンガポールのほうが色濃く残ってるのかもね。先進的だけど、国としてとても若くて、でも指導者層は昔の価値観を継承しているわけで。

シンガポールの厳しい現実

>>> 紹介してくれたhonestbee*、日本支社にインターンを派遣して活躍してくれてるけど、拡大してるのかな?

Wayne:どうなんだろ、でもファウンダーもローカルチームの組成に力を入れたいと思ってるんじゃないかな。海外のオフィスで過ごす時間も長いみたいだし。

>>> 遠隔でチームのモチベーションを維持するのって難しいよね。気心知れてる人に任せても、ほころびが出る。

Wayne:昔からあるサービスをインターネットに融合させるのは、意外とシンガポールでは難しいんだよ。

>>> お、それは面白い。シンガポールは長らくアジアのスタートアップのリーダーと評されて、僕もそう思うけど、意外に「シンガポール発」の企業ってあまりないかも。Grab*はマレーシアだし、Lazada*はフィリピンだっけ?Carousell*くらいかな?

Wayne:うん、Carousellは物の個人間売買という、新しいコンセプトのものだよ。でも、フードとか、ショッピングは昔からあるだろ?例えばさ、Redmart*ってわかるよね?

>>> 知ってる。スーパーマーケットの店舗持ってて、オンラインに注目して配送システム作って・・・2014年のTech In Asiaでは地元のヒーローみたいに扱われてた。

Wayne:そう、年末にLazada*が買収したんだ。

>>> おおお、それは知らなかった。良かったじゃん。

Wayne:んー、でもあまり良いイグジットじゃなかったかも。数字は覚えていないけど、買収額と調達額を考えると・・・。

>>> プレミアムがつかなかった。つまりRedmartも苦しんでた、ということか。しかもLazadaはAlibabaの傘下だから、ステークを握りきれずに、他社の傘下に入った、と。シンガポールのスタートアップが苦しむのは、まず自国のマーケットの狭さ、人件費、とくに開発者単価の高騰だと思うけど、これ他には?

*honestbee: ショッピング代行や、フードデリバリーのオンデマンドサービス。シリーズAで1500万Sドルを調達して話題になった。日本でもサービス提供している。
*Grab: 配車サービス。東南アジアにおけるUberの競合。
*Carousell: 個人間の物販売プラットフォーム。日本でいうメルカリ。最初からモバイルにフォーカスしていた点もメルカリと一緒。
*Redmart: グローサリーのオンラインショッピングサイト。実店舗を持ち、配送網も自前。
*Lazada: 総合オンラインショッピングサイト。東南アジアで凄まじい存在感。

オンライン化が受け入れられるとは限らない

Wayne:シンガポールは、意外とオンライン化を必要としていなかったりするんだ。例えばUber Eats*は便利かもしれないけれど、郊外の公営住宅にだって敷地内にフードコートがあるんだ。めちゃくちゃ安いし、味も悪くない。エレベーターを降りて、1ブロックも歩くことなくできたてを食べられるんだよ。

>>> たしかに、デリバリーより早い。単価が低いものを少量運ぶのも効率が悪い。それにシンガポールは外食文化だもんね。グローサリーは高いし。

Wayne:まあ、それでも買い物代行も、フードデリバリーもましなほうかもしれない。「食べる」ことは人間にとって不可欠だから。僕が選んだ「クリーニング」はもっと難しい。部屋が少々散らかっていても、人間は生活できるから。「あれば良いもの」よりは「無くてはならないもの」のほうがお客が付きやすい

>>> しかも清掃員は人間だから、人によって品質の差が出る。同じ人でさえも、パフォーマンスの差はある。それにお客側も、満足の定義が異なる、と。

Wayne:そう。それにこの国は、労働許可をもつ清掃員が慢性的に不足してる。いわゆるLow entry barrier, high competition(参入障壁は低いが、競争が厳しい)市場だよ。

>>>  マスを握ろうとすると、厳しい戦いを強いられるんだなぁ。でもスケールの可能性があるところを狙ってこそのスタートアップなんだろうし。そこいくと、SSHPはターゲットを絞れているほうだと思うけど、動き方がスモールビジネスというか、プロジェクトベースだから、このままじゃスケールしない。

Wayne:お互い大変だ。

>>>  まあね、でもなんとか生き延びよう。来期も会おう。楽しみにしてるよ。

*Uber Eats: 配車サービスUberが手がけるフードデリバリーサービス。

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鳴り止まないWayneの電話

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上記はほんの一部で、日本とシンガポールの政治の違い、人口動態、B2B・B2Gの難しさ、アジアにおけるSaaSビジネスの難しさ、士業サービスのオンライン化、SSHPをアップグレードさせる方法、人工知能など、色々話しました。

英語力、幅広い話題に対応できる知識もそうなのですが、大切なのは、自分の見解を乗せていること。願わくば自分の経験に基づいていること。これらがあれば、世界との会話が10倍楽しくなります。語学やコミュニケーションについては、こちらからどうぞ。

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