SSHP第7期も2/3を終了しました。研修生たちは出口に向けて走っています。
出口といえば、スタートアップの上場や買収のことをExit(イグジット=出口)と言います。経営者や投資家目線の言葉で、特に投資家にとっては大きな目標です。
第7期の受入企業の一つである投資会社Fortitude CapitalのCharles J Phua氏に話を伺いました。
生まれながらの起業家では無かった
>>> チャールズ、本日はお時間ありがとうございます。早速ですが、チャールズはシンガポール生まれですよね。どんな家庭環境だったのですか?
Phua:いわゆる一般的なシンガポールの過程です。父は公務員で、母は専業主婦でした。
>>> ということは、起業は家族にとって当たり前の道ではなかった?
Phua:そうですね、でも反対も賛成もされなかった。やりたいようにやれ、という感じでした。
>>> そもそも起業を志した理由は何だったのですか?
Phua:ディプロマ(シンガポールの学位・・・日本で言う専門学校にあたる)を終了したら警察官になるつもりだったんです。
>>> 警察官?そこからビジネスを志すというのは、大きな方向転換ですね。
Phua:確かに(笑)。自分の将来を考えてみて、余裕のあるライフスタイルを実現するには警察官の給料ではやっていけないと悟ったんです。だからビジネスしかないな、と。
>>> 最初の仕事は?
Phua:友人の父親のビジネスを手伝いました。日本から健康サプリの輸入をする事業です。高品質な日本のサプリは需要があったので・・・そこから兵役があって、玩具や風水のビジネスを始めました。
>>> 風水って、占いとか、縁起とかの、風水?
Phua:そう。その風水。風水コンサルタントです。シンガポールは中華の文化圏でもあるから、風水は欠かせないものです。とはいっても僕自身が風水師だったわけじゃなくて、ビジネスを回す側として参画しました。
転身からのイグジット
>>> 風水のビジネスはどれくらい?
Phua:結局うまく行かず1年位で閉業しました(笑)。次はeコマースのスタートアップです。
>>> ポジションは?
Phua:セールスアドバイザーとマーケテイングですが・・・まぁスタートアップなのでなんでもやりました。知識は無かったんだけれど、それまでの事業で10万ドルの負債を抱えてしたので必死でした。正直、当時はスタートアップという言葉の意味も知りませんでした(笑)。
>>> そこで、結果を出した。
Phua:最初は全然思ったように成果がでなくて、地獄でした。人に聞いて、自分で調べて、試行錯誤して・・・ほとんど失敗ばかりでしたけど(笑)・・・ようやく数字が上がるようになりました。会社として、20000ドルのビジネスを数年のうちに4000万ドルにまで引き上げて、上場しました。
>>> その企業は今は?
Phua:もう存在しません(笑)。ヨーロッパの企業に買収された直後に僕は会社を去って、会社もうまく行かずに閉じました。eコマースは地域色が強く出るので、欧州のやりかたをそのまま踏襲しても絶対うまく行かないんです。何となく結果は見えていました。
関連付けて事業を始める
>>> そこからいろんな会社を始めたんですよね?
Phua:色々やってきましたが・・・一つ挙げるならマーケティングの会社です。前職で身についたデジタルマーケティングの知識と経験をベースに、中小企業を中心にコンサルティングしてます。
>>> ほかにも、モバイル周辺機器のメーカーでしたっけ。
Phua:そう。もう売却したけれど、スマホ用のモバイル充電器を製造販売する事業もしていました。
>>> 超激戦商品ですね。どうしてモバイルバッテリーに目をつけたのですか?
Phua:前職でECサイトのデジタルマーケティングをやっていた当時に市場動向をリアルに追っていました。iPhoneもAndroidもまだまだこれからで、モバイルバッテリーの需要が伸びそうだ、と感じて投資しました。
>>> マーケティングの会社もモバイルバッテリーのメーカーも、前職の経験が相当効いたんですね。
投資家として
>>> 現在SSHPのインターンは、チャールズが投資を検討しているICO案件のデューデリジェンス(投資など、意思決定のための精査)や、ドリアンショップの状況を知るための市場調査を担当しています。その他にもテック企業など、とても幅広いポートフォリオをお持ちですが、どのように投資対象を決定していますか?
Phua:収益性です。もちろん社会貢献の性質もあるけれど、リターンが見込めない事業に投資する意味はないです。
>>> 収益性の高い物件を見極めるために、投資家に重要な資質とはなんでしょうか?
Phua:今何が起きているのかを把握して、次に何が来るのかを予測する力が必要ですね。
>>> 投資後利益を出すまで、どれくらいの猶予期間を設けますか?
Phua:ものによるけど、通常は3ヶ月です。
>>> ずいぶん短く思えます。テックスタートアップだと、最初の数年は赤字、というケースも少なくないです。
Phua:コア技術やプラットフォームの生成のみに執着していると、時間がかかりすぎます。僕は技術を駆使して、シンプルなビジネスを効率化させて儲けたいと考えています。たとえばドリアンの商売は輸入して売るだけのシンプルなビジネスですが、デジタルの空中戦を演じて、若者向けのリアル店舗をリブランドして拡大することだってできます。自動車のリペアとカスタムの事業も面白いですね。事業自体はとてもシンプルで、まだまだ非効率的な面が多いので、改善の余地があります。
>>> 収益性に加えて、事業者のどう判断しますか?
Phua:ビジネスを回して利益を出す、という考えをもっているか、です。知識はいつだって身につけられるし、技術は人を雇うことでなんとかなります。でも利益を出すマインドはなかなか身につかないです。
>>> 3ヶ月で結果が出ない場合は。
Phua:僕たちにできることがあれば、ハンズオンでやるべき対応を打つけれど、ダメだったら早い段階で売却します。
今後について
>>> 見切りをつけるのが大切、ということですね。
Phua:そう。投資家として、リターンを積み重ねることが重要なんです。
>>> なかなかプライベートな時間はなさそうですね。週に何時間働いていますか?若い投資家にライフワークバランスなんて無い、ということですね。
Phua:まさにそのとおり。月から土曜までは、なるべく仕事のことを考えていたいです。日曜日だけは家族のためにオフをとります。
>>> そんなチャールズの夢や目標はなんですか?
Phua:悠々自適なライフスタイルを実現したいですね。長く働くつもりはないので、あと3年でリタイアを目指します。
>>> なるほど・・・利益を出すまでの猶予が3ヶ月、と仰る理由が腑に落ちました。
Phua:利益を生み出し続けるポートフォリを複数持っておけば、バリのリゾートにでも引っ越そうかな(笑)。
学生たちに伝えたいこと
>>> 日本の学生や、若い社会人にアドバイスを。
Phua:ネットワーキング。ビジネスで成功するかは人脈作りにかかっています。
>>> バリバリのネットワーカーでしたか?
Phua:実は真逆でした。人付き合いは苦手だし、本当なら家で家族と過ごす方が好きなんだ。でも状況にふさわしい人を知ってることが、成功への何よりの近道になります。超有名人なら自分のところに人がやってくるようになるだろうけど、それまでは自分で足を運ぶしかありません。
>>> どうやって人脈を気付いてきましたか?ミートアップなどのイベント?
Phua:いや、公開イベントはあまり有用だと思えません・・・100人に会って1人いるかどうかです。それよりは、クローズドイベントにアクセスするべきですね。
>>> そのためには?
Phua:なんとか最初の一人を見つけること。走り回ってもいいし、派手なことをやって注目を集めるのもありですね。一人重要な人に出会えれば、次につながります。特にシンガポールでは。
インタビュー後書き
恵まれた体躯に自身をみなぎらせた立ち居振る舞い、南国らしからぬスーツ姿は、いかにも若き成功者の印象を与えます。
でも、事業に失敗して負債を抱えた過去があり、スタートアップに飛び込んで、失敗を繰り返しながら成長し、リスクをとってここまできたことも事実です。
しかも、本来は人見知りだという。
人見知りといえば、5期でお世話になったこの方を思い出しました。
ぜんぜん違うタイプでも、やるべきことに集中して、謙虚さをもって事に臨む、という共通点を感じました。
ため息がでるかっこよさです。
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